お庭で出来るパッシブデザインで快適な住環境づくり

パッシブデザインとは?

お庭で出来るパッシブデザインで快適な住環境づくり:木陰

家づくりに取り組んだことがある方なら、「パッシブデザイン」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか?パッシブデザイン=passive designとは、冷暖房や電気等に依存せず、自然の力をうまく活用して快適な住環境をつくる設計手法を指します。Passiveとは「受動的・受け身」という意味なので、自然の力に抗うのではなく、受け流し受け止めながら活用するとうイメージですね。例えば、軒を長くすることで夏の日差しを遮り、冬の低い太陽からの日差しは取り込めるような設計は、まさにパッシブデザインです。
もちろんエアコンを使えば、夏は涼しく冬は暖かい環境をつくることは可能です。しかし、自然の力を活用した涼しさ、暖かさは心地よさが違います。冷房の風が苦手、冬のエアコンの乾燥が苦手、という方はいらっしゃいますが、自然の涼風や冬の陽だまりの暖かさが苦手という方はいないでしょう。自然から得られる心地良さは文句なしに気持ち良いものです。もちろん環境問題や省エネに大きく貢献する手法でもあります。環境に負荷をかけずに快適な住環境が得られるパッシブデザインは、これからますます必要とされるものになっていきます。
家づくりは建物の設計だけではありません。お庭も含めて家づくりと言えます。それではお庭部分ではどのようなパッシブデザインが可能なのでしょうか?4つの手法をご紹介します。

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目次

  1. パッシブデザインとは?
  2. 庭でできるパッシブデザインの手法
    1. 緑陰で夏の暑さを和らげる
    2. コンクリートよりも芝生やグランドカバーを活用する
    3. 温度差でつくられる風を受け取る
    4. 樹木で冬の季節風を遮断する
  3. まとめ

庭でできるパッシブデザインの手法

緑陰で夏の暑さを和らげる

パッシブデザイン:緑陰

夏の暑い日、木陰に入るとひんやり涼しいですね。暑い太陽の日差しを避けられるので当然のことのようですが、実はそれだけではありません。植物は葉の裏にある気孔で呼吸をしており、呼吸の際に樹木の体内の水分を放出しています。この現象を「蒸散」と言います。この水分が蒸発していく際、周りの熱を気化熱で奪うため、木陰は涼しく感じられるのです。樹木によってつくられた日陰=緑陰は蒸散の力により、心地よい空間になっているのです。建物でつくられた日陰よりも、緑陰はより一層涼しく感じられるはずです。
この緑陰を利用して、室内の住環境も改善させることができます。リビングは南向きの庭に面して設計されることが多いかと思います。この場合、大抵は大きな掃き出し窓とセットでしょう。すると夏の日中には暑い日差しが室内に入り込み、室温は一気に上昇していきます。この窓の近くに緑陰をつくる樹木を植えることで、室内への日差しをコントロールできます。日差しのコントロールとともに、蒸散による作用で窓周辺の空間を涼しくしてくれます。窓を開けていなくても、冷房の効率が変わるのがわかるはずです。緑陰をつくる樹木は落葉樹を選びましょう。日差しを室内に取り入れたい冬の時期には葉を落とすので、日差しを遮ることがありません。
樹木を植えるスペースが無い場合は、プランターで出来るグリーンカーテンで緑陰の効果を得られます。プランターにゴーヤやヘチマなどを植え、窓の前のネットに絡ませていくと真夏には立派なグリーンカーテンになっています。葉の間を抜けてくる風は気持ちが良いですよ。

コンクリートよりも芝生やグランドカバーを活用する

パッシブデザイン:芝生

真夏のアスファルトやコンクリートが裸足で歩けないほどの熱さになるのは、みなさん体験したことがあるかと思います。アスファルトやコンクリートは熱を蓄えるため中々冷えず、日が落ちてもまだ熱さが残ります。これが夜間も気温が下がらない原因の一つとなっています。そのためコンクリートやアスファルトが多い都市では、都市近郊よりも温度が高くなるヒートアイランド現象が起きています。これは個人住宅レベルでも同じことが言えます。家の周りを全てコンクリートで覆ってしまえば、夏の日中は照り返しがきつくなり、熱を蓄えることにより夜間の気温低下を妨げます。
一方、芝生やグランドカバーは、植物が行う蒸散の作用と土の保水性により、夏の日中でも高温になることはありません。日中だけでなく、夜間の気温低下の助けになります。外構において、駐車場やアプローチ部分などを舗装することは必要なことですが、可能な限り土を残して植物を植えるスペースを残しておくことは、快適な住環境づくりにおいて大切です。
また、土の部分を残すことは排水性向上にもつながります。近頃は夏になると、毎年のようにゲリラ豪雨や大雨、洪水がニュースになります。短時間で街全体の排水機能を上回る大量の雨が降ると、水を排水しきれずに氾濫が起きます。土の部分にはある程度の水が浸み込むため、下水へと流れ込む水の量を減らす助けとなります。個人レベルでは少ない量かもしれませんが、個人の住宅で土の部分を残すことで、街全体の排水機能向上につながります。

温度差でつくられる風を受け取る

パッシブデザイン:庭の風

庭に樹木があることで、緑陰によってつくられた冷たい空気と周囲の空気に温度差が生まれます。この温度差により上昇気流が発生し、風が生み出されます。この風を享受するためには、窓に近い場所に落葉樹を植えましょう。根が強く張る樹木は、建物基礎に干渉してしまうこともあるので、根が強すぎない樹木を選べば安心です。
気温差により風を生み出す手法は京町家でも見られます。京町家は「鰻の寝床」と言われるような、細長い形状をしています。大体の造りは玄関側が通りに面し、奥には建物に囲われてあまり日の差さない坪庭があります。この坪庭は日が差ささないため、夏でもひんやりとした空気に包まれています。玄関側と坪庭側の温度差により風が発生し、京町家の中は風が抜けていく仕組みになっています。
これを応用して、南向きの庭の他に、あまり日の差さない坪庭や中庭をつくることで風が抜ける家となります。夏になったら坪庭に打ち水をするとより一層効果が得られるでしょう。日当たりが悪いと育つ植物はあるの?と心配されるかと思いますが、日当たりが悪くても育つ植物はたくさんあります。日当たりの良い庭とは趣の違う、しっとりとしたシェードガーデン(日陰の庭)が楽しめます。

樹木で冬の季節風を遮断する

パッシブデザイン:シラカシ

日本の冬は西高東低の気圧配置となり、北西から冷たい風が吹きます。日本海側では湿った風により雪が降り、太平洋側では山脈を越えて乾いた風が吹きます。太平洋側では雪は降らずとも、冷たく乾いた風が冬をより厳しいものとしています。この季節風を遮るような場所に常緑樹を植えると防寒対策になります。落葉樹は冬に葉を落としてしまうので、効果がありませんので、寒さに強い常緑樹を選びましょう。シラカシやソヨゴ、キンモクセイは寒さにも強くおすすめです。

まとめ

パッシブデザイン:植物の力

お庭で出来るパッシブデザインの手法を4つご紹介しました。手入れが大変だから植物は少なめで・・・という考えもありますが、お庭があるならば、植物だけが持つ力を存分に受け取らないともったいないです。パッシブデザインを取り入れて設計された場所は、本当の意味での心地よさを感じられるはずです。
そしてパッシブデザインはエコにもつながります。地球規模でエネルギー問題は重要な課題となっていますが、パッシブデザインを取り入れることで、一人一人が少しでも環境問題にアプローチできると良いなと考えます。個人で出来ることは小さなことですが、街全体で見ると環境改善に大きな効果が得られるはずです。これからお家づくりが始まる方も、すでにお庭がある方も、真似できることはあるかと思います。ぜひ参考にされてください。

この記事のライター

舩村 佳織

エノコロ庭園設計室(https://www.enokoro-teien.com)にて静岡県を中心に、野草や自然素材を用いた造園設計施工を行っています。
樹木医、一級造園施工管理技士。

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